先日、15年ぶりくらいにジブリアニメ『魔女の宅急便』を観ました。大人になってからあらためて観直してみると、また新しい発見があって面白かったりするんですよね。

魔女の宅急便

この作品については様々な点から論じることができますが、僕は魔女っ子・魔法少女ものという観点から、キキの魔法力喪失について考えてみました。


キキの魔法力は何故弱まったのか

作品の後半、キキとトンボが一緒に海へ行きながら楽しそうに会話をしているところに、途中でトンボの友達がやってきます。そこで「飛行船の中を見に行こう」という友達の誘いにトンボが乗ってしまったため、キキは怒って帰ってしまう。

そしてその後、なぜかキキはジジの言葉がわからなくなり、さらに上手く飛ぶことも出来なくなってしまう。これはどういうことなのか?



処女喪失?

日本の魔女っ子・魔法少女アニメにおいて、しばしば少女の魔法の根拠とされるものは、主に血統(魔法使いの家系であること)と、処女であること

キキは魔法が使えなくなる前に、トンボと一緒に自転車に乗って空を飛んでいました。男女が一緒に空を飛ぶことは、性的関係をもつことの比喩としてしばしば用いられる表現だったりするんです。他のジブリ作品だと、『かぐや姫の物語』におけるかぐや姫と捨丸の再会シーンが記憶に新しいですね。

このことから、最初は「キキは処女喪失によって魔法が上手く使えなくなってしまったのでは?」と考えました。でも、それだとエンドロールでキキが再び飛べるようになっていることの説明がつきません。



アイデンティティ不安

では何故キキは上手く飛べなくなったのか。それは飛べなくなる前のいくつかの出来事と、キキが13歳の思春期の少女であることに起因します。

思春期の少女というのは、自我がとても不安定な存在。それまでトンボと2人で楽しく話していたのに、そのトンボが友達の誘いに乗ってしまい、キキは「嫉妬」という、おそらく初めて芽生えた感情と上手く向き合えないでいました。

さらにその前、仕事でおばあさんのパイを届けても、孫の少女には喜んでもらえませんでした。「魔法」という自分のアイデンティティを生かした仕事で他人を喜ばせることが出来なかったことで、キキは自信を失ってしまいます。

そういったことが重なり、思春期の不安定な自我が大きく揺さぶられた結果、キキは上手く飛べなくなってしまったんじゃないか、というのが僕の考えです。



ジジは最初からただの猫だった

それでもキキは最後にはトンボを救出し、町の人たちにも認めてもらえたことで成長し、自信を取り戻すことに成功しています。

こうして、エンドロールではキキは普通に飛べるようになっているわけですけど、猫のジジは最後まで言葉を話さないままでした。

この理由については、宮崎駿がインタビューでこのように答えています。
「ジジの声はもともとキキ自身の声で、キキが成長したためジジの声が必要なくなった。変わったのはジジではなくキキ。」

思春期以降の人間の心は複雑。実際に口に出した言葉だけが本心ではなく、心の中にいくつもの矛盾した考えや感情をいだいているもの。キキは人形を使うごっこ遊びのように、ジジになりきって自分の思っていることの一部を喋っていた、ということ。

実際映画をよく観てみると、ジジはキキ以外の人とは話していないし、キキもジジ以外の動物の言葉を理解できていないんですよね。

トンボと別れた後でジジの言葉がわからなくなったのは、今までにないほど自我が不安定になり、「嫉妬」という初めての感情を上手く言葉に出来なかったから。自分で言葉に出来なければ、ジジになりきって喋ることもできません。

しかし、新しい町でさまざまな経験をして、最後に困難も乗り越えて成長したキキは、もはやジジになりきる必要はなくなり、ごっこ遊びを卒業したということ。



処女喪失自体は事実

なお、最初に述べた処女喪失説について。キキの魔法力喪失の理由としてはどうかと思いますが、キキとトンボが性的関係をもったこと自体が間違いかというと、そんなことはありません。原作では、キキはトンボと結婚して子どもを産んでいるから。


一緒に空を飛ぶ場面を描くことで、将来的にキキとトンボが結ばれることを暗示しているのだ、と考えることもできるでしょう。

(余談ですが、キキが自分の魔法力低下に気づく場面で、キキはウィンナーを食べていました。皿には丸いミニトマトが二つ。処女喪失説が頭にあると、これもまた意味深な演出に思えてきますな。)



まとめ

・キキが飛べなくなったのは、思春期の彼女がアイデンティティ不安に陥ったことの表れであり、トンボを救出したことで自己実現を果たし、再び飛べるようになった

・ジジは最初から喋っておらず、キキがジジになりきって自分のもう一方の気持ちを語っていたが、キキが精神的に成長したことでその必要はなくなった

・キキとトンボが一緒に空を飛ぶシーンは、将来二人が結婚するという原作の展開を暗示している


今回は主に以下のサイト・論文を参考にしました。

http://d.hatena.ne.jp/hoshi_bushi/touch/20060729
http://ir.lib.fukushima-u.ac.jp/dspace/bitstream/10270/4002/1/2-448.pdf